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年頭所感

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2021年 年頭所感
グレート・リセット(再起動)
〜新たな時代を見据えて〜

福 井 経 済 同 友 会
代表幹事  江守 康昌
代表幹事  林  正博
代表幹事  清川  肇


 昨年はまさにコロナで始まり、コロナに振り回された一年であったと思います。東京五輪は延期を余儀なくされ、注目のアメリカ大統領選挙もコロナ対策を見誤った現職のトランプ大統領が敗北し、バイデン新大統領が1月20日に正式に誕生します。

 新大統領はパリ協定への復帰など環境問題へと大きく政策転換を計ると言われています。すでに地球温暖化対策を中心とする環境問題は中国や日本の菅政権もCO2の新たな削減目標を掲げており、世界的に関心が高まっていくのは間違いないでしょう。トランプ時代と変わってこの分野での米中間の新たな競争が始まるのではないでしょうか。

 このことは様々な業界に大きな影響を与え、各種規制の強化など企業経営の課題となってくると思われます。さらにはメガFTA(*1)を巡っても米中間のさや当てが始まると思います。TPP(*2)にすぐに米国が加わるとは思えませんが、トランプ時代とは質の違う米中間競争がさらに激化し、我々日本の企業も少なからず影響を受けるでしょう。

 昨年日本は株高で推移しましたが、これまでの定説であった株高=ドル高とはならずにドル安が進行しました。米中間競争の激化が世界経済や為替にどのような影響を与えるか。東京五輪も計画通り開催できるのかどうか。この一年は予断の許さない経営環境が続くとみています。

 一方でこの一年は、コロナ不況からの脱却と再生を図る年としなければなりません。まずはコロナによって、感染症予防や健康への意識が高まり、企業においても従業員の健康管理が一層重要度を増しています。県民・自治体・企業が一体となり「健康の大切さ」を強く認識するようになった今こそ健康経営推進の活動に積極的に取組む必要性を感じています。

 具体的には福井経済同友会の企業経営委員会健康経営分科会において、県内企業による「健康経営」と「新型コロナウィルス対策」に関する事例の研究に引き続き取り組んでまいります。コロナ禍によって在宅勤務やリモートワークが導入されるようになり、新たな働き方が生まれてきましたが、一方で人と人との物理的な距離が生じ、知人友人と過ごす時間の減少による不安やストレスなどの新たな課題も確認されています。このような課題に企業はどう対処していくべきなのか重要な経営課題と思います。

 また、コロナによる働き方や会議の持ち方等々、企業活動の変化は、DX(*3)への対応の動きを一層加速させました。DXによって企業はより一層の競争力の確保を図らなければなりません。これは待ったなしと思います。

 昨年末、デジタル変革への対応が福井県内の企業は弱いとの調査結果が県から発表されましたが、企業はもちろん地域社会においてもDXが地方というハンデを解消させてくれると我々は会社の経営を通して実感しています。DXを強みにした経営、地域運営を考えるべきです。このため福井経済同友会では企業経営委員会デジタル経営分科会において喫緊の経営課題として先進企業事例の調査等を実施する予定です。

 長期的に見た場合、我々福井の企業と県内自治体にとって最も大きな共通課題は人口減少への対応にあると思っています。人口が減っていく地域に明るい未来があるとは思えません。地域で活動する企業も同様です。

 昨年、初めて東京都の人口流出が人口流入を上回りました。コロナ禍が人口一極集中の危険性の高さを我々に示したのかもしれません。経済効率性を追求する故の東京都市圏集中は、防災、国防、環境保全いずれの視点においても国の永続的な発展のためには大きな障害になると指摘はされてきました。しかし、今日まで国は全く有効な手を打たず、地方の疲弊が着実にかつ深く侵攻してきました。

 コロナ禍は日本の将来に警鐘を鳴らしたとも言えます。ここで一度グレート・リセット(再起動)すべきなのかもしれません。2021年をコロナ禍から立ち直り、日本復活の年としなければなりません。そのためには日本の社会・経済の持続的発展を目指して国づくりのあり方を変えるべきです。

 その際の大切な視点が都市部から地方への人口の移動です。都市部の方々の移住先として福井県は人気上位にあります。教育環境、自然環境、良好な治安等々、子育て環境の総合的なバランスの良さが人気の原因のようです。私たちは長年に渡り、企業人と県内教師の皆様との交流を続けてきましたが、今後も県内企業と教育関係機関との相互理解を深めながら次代を担う人材の育成に努めてまいります。

 日本一と言われる福井の教育をもっと積極的に県外にアピールし、子育て世代のUターン、Iターンを促進させ、人口減少を少しでも遅らせて、地方対地方の競争に福井は勝ち残っていかなければなりません。

 教育県・福井を活かした移住促進と共に、重要なことは北陸新幹線の開通による交流人口の拡大です。1年の開業の遅れは誠に残念でなりません。様々なイベントやまちづくりや観光振興に与える影響は甚大です。この上はまずは確実に24年春の開業を成し遂げ、さらに敦賀以西の間断なき着工を切にお願いしたい。

 1年遅れるかもしれませんが北陸新幹線は福井に延伸してきます。中部縦貫自動車道の県内工事完成もあります。本県を取り巻く高速交通体系が大きく変わっていきます。まさに100年に一度のチャンスが到来しようとしています。交流人口が拡大され、本県の経済・産業の発展の起爆剤になるのではないかと期待されます。

 交流人口の拡大は観光客だけを指すのではありません。出張のビジネスマンや短期滞在、あるいは首都圏の企業の誘致なども考えられます。その際に大切なことは県都であるJR福井駅前のまちづくりにあります。福井の玄関口の顔としての福井らしい駅前エリアとはなんなのか。思い出されるのは福井経済同友会で視察しました米国・ポートランド市の街並みの統一感ある落ち着いたたたずまいです。ビルの一階は商業施設と定められており、人と人が交流しやすい、立ち寄りやすい温かい雰囲気に満ちていました。

 私たちは福井らしい街並みをつくりださないといけないと思います。まずは福井に住む人にとって優しく、健やかで、かつ活気に溢れ、ホスピタリティと温もりのあるまちづくりが今求められていると思います。そのような福井ならではのまちづくり、まちの統一感は自然に出来上がるものではなく私たち自身が自ら作り上げていくものだと思います。DMO(*4)の動きも進んでいますが、活発な観光施策はもちろんですが、そのような住む人を意識したまちづくりこそが訪れる人たちを温かく迎えるおもてなしの環境を醸成していくのだと思います。

 2024年4月、福井経済同友会として初めて全国経済同友会セミナーを福井の地に誘致しました。少しでも福井らしいまちづくりとおもてなしで全国からのお客様をお迎えし、アフターコロナの時代にふさわしい全国セミナーで日本の多くの企業人をおもてなししたいと思っています。そのための準備を本格化させるのがこの2021年であると思っています。全国セミナーへの関係機関の皆様方のご協力とご理解を最後にお願いしまして私の年頭所感といたします。

用語説明

グレート・リセット 引用元:ダボス会議を主催するクラウス・シュワブ氏が提唱している2021年に開催されるダボス会議(世界経済フォ−ラム)のテーマ。同名著書から。
*1 メガFTA 広域の規模が非常に大きい多国間の巨大な自由貿易協定(経済連携)のこと。
*2 TPP 環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership)の略。合計12か国で高い水準の、野心的で、包括的な、バランスの取れた協定を目指し交渉が進められてきた経済連携協定のこと。
*3 DX DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を浸透させることで、人々の生活をより良いものに変革することと定義された概念(エリック・ストルターマン教授2004年)。
経済産業省では、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することと定義づけしている。
*4 DMO 観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと。Destination Management Organization頭文字の略。