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「創造への挑戦」 〜人口減少社会の中で新たな産業構造の創造に挑む〜

福 井 経 済 同 友 会
代表幹事   八木 誠一郎
代表幹事   江守  康昌


 これまで福井経済同友会は、本県が抱える様々な課題について地元経済人の立場から多くの提言や調査活動、行政や各地経済同友会等との意見交換を実施してきた。昨年も福井市中心市街地のにぎわい創出のため、県庁・市役所移転を含めた県都福井の10年後のあるべき姿や、福井型キャリア教育の充実、地域企業のイノベーションの在り方など福井の課題に真正面から取り組み、提言を発表した。今年はさらに課題を掘り下げ、福井経済はもちろん地域社会の発展を促すことが出来るように積極的に活動していきたい。

 さて平成27年の日本経済は中国経済の不透明感、テロによる中東や欧州情勢の不安定化といった状況の中でなんとか踏みとどまったというのが正直なところではないか。福井の状況も春の北陸新幹線金沢開業の効果もあって、観光業を中心に明るさは見られたが、全般的に見ればやや力強さに欠けた印象である。

 その一方、日本の人口減少と高齢化は確実に進行し、本県においても半数の自治体が消滅可能性地域と指摘されている。15年後の就業者数は15%強、約6万3千人減少するとの推計もあり、企業は人材確保のために、より働きやすい環境の整備、福利厚生制度の充実などを進め、併せて生産性の向上も追求していかなければならない。企業経営のかじ取りは、確実に難易度を増していく。

 地元企業の人材確保と地域産業の育成のためには、本県の人口減少に歯止めをかけ、Uターン者と移住者を増やさなければならない。Uターン者と移住者のターゲットを明確にした戦略展開が今後は一層求められる。とりわけ優秀な人材の流入は新たな福井の産業基盤の構築には欠かせない。
 例えば福井型マイスター制度を創設して、本県でしか受験できない技術資格を立上げ、県外からはもちろん国外からも優秀な人材を集めるといった、本県独自の多様な施策が今後は求められるのではないか。
 まさに官民挙げて福井の英知を結集する時である。県は昨年の秋『ふくい創生・人口減少対策戦略』を発表したが、我々地元経済界も協力すべき点は積極的に協力し、さらに戦略を進化させるべき点があれば提言し、福井の新たな創生に貢献したい。

 新たな地場産業の育成、様々な人口増加策の展開と効果促進、北陸新幹線を始めとする高速交通網の整備促進、新幹線効果をより活かす周遊・滞在型観光政策の展開、Uターン教育の推進等々、福井が抱える課題は数多いが、ふるさと福井を創生させ、福井の未来を創造していくために我々地元経済界も挑戦していかねばならない。


1.人口減少対策を見据えた新たな福井の創造

(1)新たな地場産業の創造 〜繊維・眼鏡に続く新たな地場産業を構築する〜
 生産拠点の海外移転や新興国の追い上げなど、県内製造業を取り巻く環境は依然厳しいが、その中でも新分野・新技術を切り開き躍進している企業は数多い。
 一方で高齢化の進展による高齢者の増加は、健康・医療・介護福祉分野の需要を増大させ、新規参入も相次ぐ中、新たなサービス、新たな技術への期待が高まっている。
 本県は繊維、眼鏡枠、機械などの様々なモノづくり企業が集積している地域であり、健康・医療・介護福祉分野に対し、持てる技術力と知見を発揮して、この分野の成長発展に貢献することは十分可能である。
 その際は単なる技術移転や新規サービスの展開に止まらず、健康寿命を平均寿命に近づけることを重視するという意識で、地域の健康施設や病院・介護施設の設備機能の在り方、さらには地域コミュニティや都市計画まで、視野を広げた高齢者や子育て世代に優しいまちづくりへと、俯瞰的、総合的な視点で新たな産業構造の構築を目指すべきである。
 なぜなら健康で長寿の住みやすい地域の実現こそが、幸福度ナンバー1を実感させる最重要ファクターだからである。
 今後の福井の企業は「健康・医療・介護福祉」をキーワードとして、それぞれの要素技術を振り返り、これらの分野で優れた材料、部品、器具、サービスなどの開発に注力してはどうか。
 行政に対してもそうした企業への支援施策の展開を積極的に求めていきたい。
 さらには熟練者や高度な知識・技術を持った人材を、これら需要の見込める分野へ移動することや有効活用が必要である。更に、有能な人材の県外や国外からの流入も促進させるべきである。
 以上のような施策を総合的に展開することによって、地域企業、地域経済の活性化が実現し、県民所得の底上げが図られ、流入人口の増加を呼び込み幸福度ナンバー1社会の実現へとつながっていくと確信する。

(2)人口減少対策と人材育成 〜時代は企業誘致から人材誘致へ〜
 Uターンと移住を同一レベルで政策立案しても効果はない。それぞれのターゲットを明確にして戦略展開すべきである。
 Uターンについては、福井の子供たちに郷土を誇りに思う心とアントレプレナ―シップを持たせる教育改革の実施、移住については、福井の豊かな自然と子育てに優しい社会環境を生かし、子育て女性の積極的な県内呼び込みを図るべきである。
①Uターン促進と人材育成の強化
 近年、学校教育においてもグローバル人材の育成の必要性が認識され、グローバル人材の必要性も増しているが、一方で人口流出にさらされている本県においては、地元の産業と地域社会を支えることに誇りと夢を持って地域の未来を担う人材の育成もまた欠かせない。
 従って、これから育成すべき人材はこれまでも言われていたグローバル人材と、郷土にしっかり根を張り地域発展に貢献していく人材の両方が求められており、外国語教育とふるさと教育を一体となって行っていく必要がある。
 人口減少社会の中で日本の社会や産業構造は大きく変化していく。その日本と地域の次世代を担う人材の共通した資質として「ふるさと」への誇りとアイデンテイティーを持った人材の育成は急務である。
 この日本人としての基本的資質をベースに有し、今後到来する様々な変化に対応しながら、新しい分野に積極的に挑戦して社会を変革していく人材、即ちアントレプレナーシップを持った人材の育成を目指すことが重要である。
 当会はこれら人材育成のための教育に積極的に協力していく。
②女性活躍のステージ拡大と子育て女性の移住促進
 人口減少社会の中で地域経済を担う企業の発展には、女性が本来の能力を発揮できる、または引き出せるような職場環境が欠かせない。共稼ぎ率の高い本県では、女性の職場への進出は目覚ましいものの、管理職への登用も含めて、女性の活躍の場が広がっているとは言い難い。さらに女性がアントレプレナーシップを発揮し、起業にチャレンジできる環境の整備という点では、地元企業も含めて本県の現状は残念ながらまだまだ遅れている。
 一方、人口減少に直面する全国の地方自治体は、社会増を競い合うゼロサムゲームに陥っている。地域での自然増を如何に実現していくかはほとんど語られていない。
 世界的な少子高齢化の中で出生率を上げているフランスの取組み、島根県邑南町(おおなんちょう)の「子育て費用援助」「住宅の確保」「仕事の斡旋」「相談窓口の設置」の政策組合せによる、シングルマザー支援などは大いに参考にすべきであろう。
 女性の能力を100%活かすためには、子育て世代の女性のサポートを3世代同居に求めるだけではなく、先進的な事例に学びつつ、本県の強みを活かした助成制度を設けることによって、県外から子育て女性やその世代のカップルを積極的に呼び込むべきではないか。
 本県の豊かな自然、子供の学力・体力共に全国トップという高い教育水準、治安が良くて子供を育む地域コミュニティ―と待機児童数ゼロ等々、福井の子育て環境はまさに全国トップクラスであり、この強みを生かし、さらに女性に優しい企業内環境も推進させ、子育て女性にターゲットを定めた移住促進戦略を早期に立案・実施すべきである。

(3)新たな観光ビジネス創造 〜観光コンテンツを点から面へ〜
 北陸新幹線開業の恩恵を受け、本県内には首都圏を中心とした観光客が右肩上がりで流入しており、彼らの多くは北陸エリアを広範囲に回遊し、本県においても主要観光地を横断的に訪れている。
 しかしながら、多くの観光コンテンツに恵まれているとは言え、本県内の観光地はまだまだ各市町それぞれの「エリア限定的な観光施策」の影響下に在り、ともすると自己完結的な「点」としての観光地に甘んじているかと見受けられる。
 アクティブな県外観光客の動態に適った観光地同士を繋ぐ、あるいはゾーンとしての観光施策を打ち出し、オール福井体制で満足度を高める工夫が急務である。
 県は、観光資源の中でも取り分け福井県立恐竜博物館と一乗谷朝倉氏遺跡を「極める」方針を出しているが、この2箇所を先の視点に照らした場合、恐竜博物館と勝山スキージャムリゾート、朝倉氏遺跡と大本山永平寺と言った観光目的地間の連携を強化しなければならない。
 あくまで一例であるが、恐竜博物館の来館者が落ち着く冬期に、周辺スキー客を取り込むべく「大人のナイトミュージアム」を試行し、満足度を高めると同時に、周辺での宿泊・滞留期間を延ばしてもらうといった施策イメージである。
 そのためにも県と関係市町のコミュニケーションを密にし、観光客目線と動態に沿った環境整備、エリア内広域観光の満足度向上を目指すべきである。こと環境整備に至っては、民間投資をいっそう促進させる仕掛け作りを検討し、インフラ整備だけでなく、福井に来訪したくなる発信力・吸引力のあるブランディング整備を行ない、裾野の広い観光ビジネスを、産業として育成していく姿勢を打ち出さねばならない。

2.新たな県都福井の創造
  〜統一したブランディングによるまちづくりと"おもてなし"の推進〜

(1)県都福井のまちづくり
 昨年、県都福井の賑わい創出のために、県庁・市役所の中心市街地への早期移転を提言したが、行政機能とともにオフィス機能の集積も重要である。既に、空きビルをリノベーションした店舗の開業など、先駆的な動きが活発化している。
 今後さらにこうした動きを推進させ、ベンチャー企業等の誘致・育成を図り、若い起業家達による中心市街地の活性化を促進すべきである。
 これからのまちづくりの戦略構築や施策の展開には、地域愛や誇りに基づく市民の主体的な行動を促すための、地域のブランディングが欠かせない。県都中心市街地へのベンチャーの誘致は健康長寿福井の強みである「美食と健康」といった統一した視点を基に誘致する対象をしぼり、市街地の賑わいと新たな産業の育成を図るべきである。このことがより魅力的な県都福井の創造を実現させ、効果的な情報発信や県外からの人材の呼び込みへとつながっていく。

(2)観光客誘客と"おもてなし"の意識改革
 観光客はもちろん県外から人を呼び込むためには、呼び込む側の魅力が的確に発信され、伝わらなければならない。現地に足を運び、期待していた以上の魅力を感じて初めて人は感動し、さらに次の訪問への期待感へとつながってこそ、その人はその地のリピーターとなっていく。来訪者に期待以上の魅力や喜びを与える要因の多くが、そこで接する人情であり、味覚である。"おもてなし"が重視される意義はそこにある。
 常に重視すべきは来訪者の目線に立ち、満足度を向上させ、感動すら与える要因を追求し続ける努力である。まずは既に定評を得ている「福井の食文化」を軸に飲食・宿泊業、越前焼や河和田漆器、越前打刃物に若狭塗箸といった食に関する伝統産業までも視野に入れたブランド戦略を構築し、福井の特質として積極的に情報発信していく必要がある。
 次に福井の食文化を体験し、その深さや広さを感動してもらえる環境の提供、さらに観光事業者・従事者を巻き込んだ体験・交流を通じて、来訪者を温かく迎え入れるホスピタリティ溢れた"おもてなし"が常態化するよう、来るべき福井国体や北陸新幹線の福井県内延伸に備える必要がある。
 以上のような観点から今一度、情報発信からアクセス網、観光施設やその周辺環境、さらに"おもてなし"まで、来訪者の目線からそれらすべてを見直す必要がある。

3.北陸新幹線について

(1)早期の福井県内延伸、京都・大阪延伸の実現
 北陸新幹線の経済効果についてはすでに金沢開業で実証されており、少しでも早く県内延伸と福井駅先行開業の実現、さらに京都・大阪へつなぐことでより一層の経済や観光面での効果が期待できる。国土強靭化という視点でも早期全線開通を目指すべきである。

(2)敦賀以西ルートについて
 敦賀からのルートについてはこれまでの経済的、文化的な交流を考えても京都駅通過が大前提である。よってJR西日本が内部検討しているという京都駅経由の小浜回りルートの実現を強く求めたい。

(3)「福井発スーパー特急しらさぎ」を名古屋へ直結
 福井は関西だけでなく中京に対する北陸の西の玄関口である。新幹線を利用して北陸から名古屋に向かう場合、敦賀以西のルート選択にもよるが、北陸新幹線が全線開通後も敦賀、米原の2回の乗り換えになる可能性がある。将来の名古屋でのリニア接続を考えてもこれは大きなネックである。
 現状のしらさぎを「福井発のスーパー特急」として再生し、敦賀から米原を経由しないで直接岐阜県に抜けて名古屋に至る新たな路線を構築すべきである。元々、北陸・中京新幹線として法的には計画線に上がっているルートであり、福井の経済・観光の発展のために欠かせない路線と考える。
 これによって北陸・東海・関東を結ぶ高速鉄道ループが完成し本州中核地域の経済発展、国土強靭化に大きく貢献することは間違いない。

(4)敦賀開業後も在来線特急の福井駅までの存続を
 敦賀以西のルートの早期完成を図るにしても、敦賀での乗り換えが長期化することは避けて通れない。この間の利用者の利便性確保を考え、サンダーバードとしらさぎといった在来線特急を福井まで存続させるべきである。

4.エネルギー政策 〜原子力発電は重要なベースロード電源〜

(1)福島の早期復興と原子力発電の安定稼働
 原子力発電所は国においては重要なベースロード電源のひとつであり、地域においては有力な産業としての位置づけは今も変わらない。東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所の悲惨な事故は、未だに多くの同胞が避難生活をしいられていることは同じ日本人として痛恨の極みである。福島の復興を一日も早く成し遂げる一方で、原子力発電所の安全性をしっかり確認し、必要な原子力発電所は早期に稼働させるべきである。
 昨年末、本県の高浜3,4号機の再稼働が認可されたことは、地元経済界としても歓迎すべきことであり、今後も安定した電力供給確保のため必要な原子力発電所の再稼働を進めていくことを期待したい。

(2)廃炉ビジネスの地元活用促進
 廃炉になる原子力発電所についても早期に結論を地元に提示し、地元企業の積極的な活用策を打ち出すべきである。県は廃炉ビジネスへの地元企業の参入の検討を進めているが、地元経済界としてもこの動きに積極的に貢献したい。

■概要図