活動報告

年頭所感

バックナンバー

「福 井 創 生」   〜人口減少社会で福井が光り輝くために〜

福 井 経 済 同 友 会
代表幹事   八木 誠一郎
代表幹事   江守  康昌


 昨年の年頭所感において我々福井経済同友会は、「志々存々」と題して、これまで福井の先達が作り上げてきた郷土・福井を、私達もこの地に生きる経済人として、子や孫に綿々と繋げていくことを宣言した。
 そして平成27年の年頭に当たり、福井の未来を担う子や孫たちにとって光り輝く福井へと創生するために、「志々存々」の思いを更に具現化させていくことこそが私達、地元経済人の使命と考える。
 人口が減っていく地域に明るい未来が望めるとは思えない。今後福井には国体、東京オリンピック、北陸新幹線開業といった大きなメルクマールが控えている。これを好機と捉え、私達は再度福井の人口を80万人台に復活させ、持続的に成長発展する福井を取り戻さなければならない。

 国内においては昨年末の衆議院選挙により、自民党安倍政権は国民から再信任されたものの、依然内需は低迷し円安下においても輸出は伸び悩んでいる。日本が国際社会における存在感の浮沈に関わる瀬戸際に立たされている現状に変わりはない。
 20世紀の100年間で日本は人口が3倍になり、第二次世界大戦の敗戦をも国民の英知と努力で乗り切り、世界有数の先進国に成長した。一転、21世紀は、急速な少子高齢化と多死化が進行し、このままでは人口は3分の1に減少すると予測され、経済活動、産業構造だけでなく、日本社会の在り方そのものの大転換は避けられないとみられている。

 福井県も例外ではなく、人口の自然減に、若者の県外流出という社会減が加わり、2040年には県民人口が60万人台に減少するとの試算がある。県内17市町のうち過半数の9市町が消滅可能性地域とまで指摘されたが、有効な対策が見出せない状況にある。

 取り巻く現状は厳しさを増す一方ではあるが、我々経済人のみならず、福井に住むすべての大人には、将来に夢と希望が持てる、光り輝く福井を次の世代へと引き継ぐ使命と責任がある。
 我々福井の経済人は、福井県民そして行政とともに危機感を共有し不退転の決意を持って次の福井の在り方を問い、そして施策の実現に取り組んでいかなければならない。

 福井創生のためのシナリオの第一は、「ストップザ・人口減」であり、同時に地域産業・企業の創生である。そのためにはまず、我々地元企業自らのイノベーションと雇用の拡大、情報発信力の強化である。ここ数年福井経済同友会では地元先進企業での研修や、イノベーション部会において若手経営者の交流促進等の施策を実施し、企業改革の意識の醸成に心を砕いてきた。今後もこうした努力をつづけ経営者自身の改革への動機づけを図っていきたい。
 行政においては、ネットを介した地元産業・企業紹介等の様々な施策を展開されているが、縦割り行政の中で統一された戦略展開が見えてこない。また、西川県政が提案している「ふるさと企業減税」について、他の経済同友会等へ福井経済同友会としても理解を働きかけていきたい。
 同時に、県内教育においては、福井の良さや地元企業との提携といった、従来のキャリア教育をさら進めた対策を実施し、県内教育現場におけるUターン促進策も提案したい。いずれにしても人口減少対策は官民挙げて取り組むテーマであり、我々福井経済同友会も積極的な提言と協力を惜しまず、個々の企業の努力と共に人口減少対策に貢献していかなければならないと考えている。

 また、地場産業振興策の一案として、福井を東南アジアからの外国人技能者の教育・育成の国内拠点と位置づけし、できれば今後示されるであろう国の地方創生事業や経済特区構想とも連携した取り組みができないかと考えている。
 これは従来の研修生受け入れ制度とは違い、地元民間企業と県庁等の行政機関の協力を得て“ものづくりの福井”としての特性を生かし、すでに東南アジアへ進出している地元企業の現地採用者の共同訓練等を手始めに、日本語、日本文化教育等も実施し、日本の技術、品質管理、商品への愛着、顧客への満足度最大化などを福井の地で学んでもらい、最終的には自国に戻って自国の発展に尽力する人材を育てるということである。県が策定中の新経済戦略とも連携し官民協力して進めていければと考えている。

 第二に福井の顔ともいうべき県都・福井市の創生である。これについては今春の提言に向けて検討を重ねているが、県庁、福井市役所の街中への早期移転、跡地の有効活用に思い切って踏み込みたい。
 この県都創生に大きなインパクトを与える北陸新幹線について、金沢―敦賀間の3年前倒しが認められたほか、福井経済同友会始め、福井商工会議所、福井県経営者協会の地元経済3団体が昨年末に緊急アピールした福井駅先行開業についても、先ごろの与党PTの協議において「今年8月末までに福井駅先行活用を検討する」との文言が入ったことの意義は誠に大きい。しかも本県選出の国会議員・稲田政調会長がPTの座長も兼務することは福井にとってまたとない好機と考える。
 これ以上金沢や富山との格差を増長してはならず、経済、観光面での機会損失を拡大させてはならない。他の福井の経済団体とも足並みを揃えつつ、様々な課題はあろうが、東京オリンピックになんとか間に合わせた福井駅の先行活用を今後も強く訴えたいと考えている。

 また、北陸新幹線金沢開業に伴う小松―羽田便の減便を懸念している。現時点で航空会社にそのような動きはないが約6割と言われる金沢からの利用者がかなり新幹線に流れることは容易に想像される。新幹線も来ない、さらに空の便まで縮小することは福井にとって最悪の事態である。福井の利用客の向上をはかるためにもこの際、小松空港を改め「小松福井空港」にしてはどうか。空港名称に福井が入ることで福井県民の愛着も増幅され、小松福井便が飛ぶことは福井のイメージもアップする。空港としても、金沢からの利用者の穴埋めは福井からの集客増にしか見込めない。関係機関の検討を期待したい。

 第三のテーマは、原子力政策と立地地域である嶺南地域の創生である。これまで福井は国のエネルギー政策に積極的に貢献し、一方でそれに伴う周辺産業の振興と交付金等を活用した地域活性化を進めてきた。
 東日本大震災以降、原子力発電所の再稼動が困難な状況の中で、国は未だにエネルギー問題の将来像を示さず、高経年炉の問題は電力事業者の判断に委ねたきりである。既に原子力発電所が集中立地する嶺南地域の産業の疲弊は限界に近づいており、原子力発電所の早期再稼働は当然ながら、国のエネルギー政策から自立した嶺南創生策の構築が求められている。

 福井創生に向けて第四に掲げるのは、時間軸を意識した全県統一の目標設定の必要性である。直近で今春の北陸新幹線金沢開業があり、2018年に福井国体、その2年後に東京オリンピック、そして北陸新幹線金沢―敦賀間開業がある。
 これらを福井創生に向けた“マイルストーン”と位置付け、それぞれの区切りにおける達成目標やロードマップを設定し、産学官のみならず県民の多くが共有することが、地域活性化に大きくつながる近道となるだろう。

福井経済同友会は今年11月1日、創立60周年を迎える。日米繊維交渉、2度のオイルショックにバブル崩壊、アジア経済クラッシュやリーマンショックなど、数々の困難を乗り越えて「幸福度日本一」に至った福井県とともに歩んできた。人口減少が始まったこれからの道のりも険しいだろうが、100周年を迎える時の福井が豊かであることを夢見て、先達のように未来を切り開く確かな一歩を踏み出す一年にしたい。


1.人口減少対策と地域産業・企業の創生

(1)市町、民間も含めた統括機関の設置
 人口減少社会を迎え、我々地元企業にとっても、人口減少によるマーケットの縮小や労働力の低下といった厳しい経営環境下での企業経営の在り方が問われている。
 我々は新たな挑戦によってイノベーションを起こし、新市場を開拓すべく、福井の企業人としての気概を持って取り組んで行く。
 また、我々企業は雇用の場として、若者を始めとする生産年齢層の地元企業への就職、U・Iターンのために、安心して希望企業を探し出せるよう、地元福井の企業として発信力・企業力を高めていかねばならない。
 同時に、行政においても様々な形でのUターン、Iターン情報の提供が活発に行われているが、県内市町も含めてそれらは統一した戦略に基づいて展開されているとは言いがたい。県外からの定住化促進策ひとつみてもまったくばらばらに行政側から発信されている。地元企業や産業紹介についても同様である。U・Iターン対策について市町や経済団体も含めて統括機関を県庁内に一本化し、効率の良い予算で最大のパフォーマンスを狙うべきである。
 その他、人口減少対策については全国的にも数が少ない陽子線ガン治療や豊かな自然と食を活かした施策、都心部からの元気な中・高齢者の県内移住、保育所待機児童ゼロ、女性の高い就業率、さらに福井の子供達の高い学力・体力を魅力にする子育て世代の移住等々、様々な対策が考えられるがこれらについて包括的、戦略的に行政側で検討されることを期待したい。

(2)福井型キャリア教育からUターン人材の育成を目指す
 当会は長年職業教育について取り組み、「福井型キャリア教育」として全国的に評価されてきている。人口減少社会の中、当会はこの教育をより一層地域の活性化に役立てていくかについて考えていきたい。
 福井の子どもたちの学力・体力が日本でもトップクラスを誇る中、高校卒業後、福井を離れる若者や女性がふるさと福井へのUターンを目指すよう導くための教育とはいかにあるべきかを、早急に検討し実行に移していかなければならない。
 小中学校での教育において福井の魅力・誇り・可能性を福井の子供たちに十分に教え込むべきである。また、キャリア教育においても伝統産業も含めた福井の産業や様々な地元企業の紹介を盛り込み、その魅力を伝えるべきである。そのために当会はインターシップの受け入れ等、キャリア教育推進にすでに積極的に関わってきたが、今後も各機関と連携し、一層の協力を惜しまない。
 目下、福井経済同友会では人づくり委員会において、福井県が今後推進すべきキャリア教育についての提言を策定中である。県が現在協議中の福井県教育振興基本計画の中にも寄与できる具体的方法についても提言したいと考えている。

2.県都・福井の創生

 県都福井市でも低未利用地(有効に利用されていない土地)が増加し都市環境の劣化が生じていることは否定できない。このような中、日本政府は行財政改革と東京一極集中を是正するために「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、大規模な予算措置を行うなど、地域活性化へ地方独自の待ったなしの取組みを開始することとなった。
 まさに、福井県の都市の在り方、特に県都福井市の中心市街地はどうあるべきか、時期を逸することなく「県都福井創生」に向けて、真に向き合わなければならない時が到来した。
 県都である福井市中心市街地においては、滞留人口(就業・居住・交流)の増加、低未利用地の有効活用向けた施策を行い、人口減少社会で幸福度日本一を感じることができ、且つ交通弱者にも優しいコンパクトなまちづくりを速やかに行うべきである。
 目下、福井経済同友会では地域経営委員会において県都福井の創生に向けて提言を取りまとめ中である。県が平成25年にまとめた県都デザイン戦略の基本的方向性を活かしながらも、その早期実施と庁舎移転後の跡地の活用、さらに具体的な低未利用地の活用方法について提言したいと考えている。

3.原子力対策と嶺南地域創生

(1)国は原子力エネルギー政策の方向性を明確に示すべき
 原子力発電に対して日本政府から未だ明確な方針が示されず、本県の原子力発電所を取り巻く環境は依然不透明な状況にある。まずは、国においてエネルギーのベストミックスという大きな方向性を示さないことには原子力発電所立地地域は一歩も前には進めない。
 また、高経年炉の廃炉問題においても、その判断は電力業者に任されているだけで、国としての廃炉に伴う地域経済・財政への影響緩和方針なども示されていない。一刻も早く、国としてのエネルギー政策の明示を強く求める。同時に例え国策とは言え、それだけを頼って地域振興策を考えてはならないということである。

(2)エネルギー技術者の育成と6次産業化への展開
 そのような中、2014年度は舞鶴若狭自動車道が全線開通し、県内外から嶺南地方への交流人口の増加が期待されている。また、北陸新幹線や中部縦貫自動車道の開通も見込まれる中、嶺南・嶺北地区が一体となって嶺南地区の産業を活性化するチャンスでもある。
 これについて我々は先述した外国人技能者育成機能のうち農林水産業の6次産業化とエネルギー関連技術者の育成を嶺南地域にて展開し地域振興の一助にしてはどうかと考えている。
 あくまで地元市町の同意があっての話ではあるが、エネルギー関連外国人技術者の育成については若狭湾エネルギー研究センターにおいてすでに実績があるが、これをさらに長期滞在型に拡充発展させてはどうか。仮に廃炉化が見込まれる原子力発電所を訓練施設として活用することも考えられるのではないか。
 また、水産加工業や農作物も含めて嶺南地域の一次産業も高齢化が進み、持続性がある状況とは言い難い。今春閉校する小浜水産高校の施設設備等も活用しながら外国人漁業従事者や工場生産野菜も含めた一次産業の担い手育成を図り、これを6次産業化していくことが嶺南地域の活性化に繋がるのではないかと考える。

4.マイルストーンを意識した地域創生

 3年後の2018年には福井国体が開催され、全国から大勢の選手団がこの福井を訪れる。2年後に東京オリンピックを控えるだけに今まで以上に注目度の高い国体になることは間違いない。この大会を成功に導くために全県を挙げて取り組み、福井国体をどのように位置付けしていくか、早急に検討しなければならない。
 施設整備、競技力向上も重要ながら、全国から集まった選手・役員も含めた多くの来訪者の方々に福井に対する好印象を持って帰ってもらえるかどうかが大きなポイントである。その際、我々が最も重視すべきと考えるのは「おもてなしの心」である。
 人と人の出会いと心の交流が何より印象に残る“お土産”であり、また福井へ行きたいと思ってもらえる重要な要因ではないか。とりわけ観光立県を目指す福井において、国体を契機に県民に「おもてなしの心」を醸成することは今後の観光客誘致にもつながる重要な視点である。
 すでに福井市では、我々福井経済同友会の提言を受けて、市民ベースのおもてなし協議会を発足させているが、これを全県的な活動へと広げなければならないと考える。
 そのことが国体の2年後に開催される東京オリンピック、更には北陸新幹線の開業へと続く次のマイルストーンへの重要なバトンになることを関係機関及び県民の方々と是非、共有したい。
 それは決して大変なことや大胆な挑戦ではなく、小学生や中学生、さらには行き交う見知らぬ者同士が当たり前のように朝の挨拶をかけ合うような街の風景を広めていくことであると考える。