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「志々存々」   〜子や孫に繋ぐ、福井人としての気概と志〜

福 井 経 済 同 友 会
代表幹事   八木 誠一郎
代表幹事   江守  康昌


 世界経済は欧州債務問題が小康状態に入っている中、やや回復傾向に向かっている。日本も、自民党政権下で大胆な金融緩和が実施され、消費マインドの好転、円高の是正、設備投資の増加などを背景に、久しぶりのプラス成長の流れにある。一方で、財政赤字の拡大への不安、消費税アップに伴う需要の反動減予想、さらには一向に改善の糸口が見えない隣国中国、韓国との関係など、日本を取り巻く不安定要素は依然払拭されていないのも事実である。

 このような日本を取り巻く環境変化の中で、我々は、日本全体の回復基調と変革の波に、福井県が取り残されるとの危機感を強めている。各種アンケートでアベノミクスの効果を実感できている県内企業は多くはなく、事業継続に不安を抱えている企業も少なくない。石川県は2015年春の北陸新幹線金沢駅開業を契機に活気を帯びてきている。しかしながら、福井県はそれに対し手をこまねいているだけでは東日本との人口交流、産業交流の流れに乗ることはできない。
 舞鶴若狭自動車道の全線開通、中部縦貫自動車道の県内開通は間近に迫り、中長期的にはリニア新幹線の開業、北陸新幹線の敦賀以西への延伸など、福井県を取り巻く交通インフラの変化は刻々と進む。利便性の向上を産業の活性化、人口減少の歯止めなどにつなげ、地域創生へと発展させるべく全県挙げての戦略構築が欠かせない時期に来ている。まさに大きな転換期を迎えているという認識が我々の危機感の背景にある。
 さらにはエネルギー立県を標榜してきた本県であるが、原子力発電所の長期運転停止に伴い、地元の疲弊も限界に達しつつある。国のエネルギー政策が不安定な中ではあるが、立地地域として活路を見出す自主的な検討が、早期に不可欠となっている。
 また、6年後に東京オリンピックが開催されることが決まり、国内のスポーツに対する興味関心が高まることが予想される。4年後に福井国体を開催できる幸運を無駄にせず、福井県のアピールの場として最大限活用する戦略も望まれる。

 福井県はこの先の5年、10年、外部環境によって大きな変化を余儀なくされることは間違いない。同時にそれは変化と改革のチャンスを手にしていることも意味している。今こそ我々は福井県の強み、弱みを再確認し、先人や先輩方々が築き上げられた福井をその志を受けつぎながら、新たに生まれ変わらせる気概を持って諸課題に立ち向かわなければならない。福井県民らしい勤勉性、粘り強さを総動員して、「幸福度日本一」を内外に実感させることはもちろんだが、U・Iターンを促進し、人口減少から人口流入する県へと逆転させ、我々地元企業がその流入人口の受け皿になることによって、福井が再び繁栄の道筋を歩み、将来に繋げていくことが福井の企業人として大志であり、役割と責任であると考える。


1.大転換期こそ福井への人口流入に貢献する企業へ

 今日、我々はかつてない変化の中に置かれている。一年先の社会情勢すら明確に予想できない困難な状況の下、県内の多くの企業が将来像を定めかねている。しかし、我々企業はまず雇用を守り、地域社会の発展に寄与するためにも事業を継続していかなければならない。それはまた、個々の企業が時代の変化に対応し、新たな魅力を発信し続けることを意味する。
 我々は100年以上続いている県内企業が、どのように時代を乗り越え、課題を解決してきたのか、どのように技術革新を進め、企業内革新を断行してきたのかという調査を進めている。現在のような大転換期を乗り切るための学び、ヒントを研究し、県内経済界全体が活性化するよう、活用していきたいと考えている。
 一方で、人口が減るばかりの地域に発展は望めず、福井は今後、大きな試練にさらされる。地域社会の魅力の創造は、行政の役割も大きいが、地域社会の大きな構成ファクターである地域産業、地域企業が担う役割もまた大きい。
 特に、Uターン希望者の多くが福井における魅力ある就職の場を認知できていないことを指摘しており、この面において福井の企業に対して一層の努力が求められていることを我々自身が自覚しなければならない。
 産業の空洞化が進み、事業継続すら大変な時代において、さらに発展し、地元での魅力ある雇用拡大への貢献が並大抵ではないことは、我々自身がよく理解している。共通の処方箋は存在しない。だからこそ我々福井の企業人は、先人の英知を現在、そして未来へとつなげ、高い志と気概、そして燃えるような闘志を持って個々の企業における努力を積み重ね、地元企業から福井の新たな元気を創り出さなければならない。そのことを平成26年の年頭に際して、会員企業はもちろん、関係する各経済団体そして県内各地の企業経営者に強く呼びかけたい。

2.原子力Plus〜新たな振興策の探求

 東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所の事故以降、我が国のエネルギー政策は民主党政権時の唐突な「原発ゼロ」宣言等もあり、国民的な論議を巻き起こしてきた。しかしながら、議論の多くは原子力発電の善し悪しを感情的に問うに留まり、国家成長のために必要な長期的なエネルギー供給のあり方や、放射性物質により汚染された環境回復および再発防止に向けた技術革新の喚起など、未だ将来に向けた戦略的な取組には至っていない。このような中、漸く、原子力発電を重要なベース電源と位置づけた国の新エネルギー基本計画が策定されることは大いに評価するところである。
 今後は福島の復旧対策に国を挙げて万全を期す一方で、地震頻発国土における原子力発電の安全性を担保する確認審査を速やかに進めると共に、高経年炉を中心に安全性が見通せない場合は、廃炉なのか、リプレースなのか、立地地域にその方向性を明確に示してもらいたい。本県を始め多くの原子力発電所立地県は、国のエネルギー政策の中核となって原子力発電事業を支え推し進めてきた。しかしながら、震災以降の原子力発電所のビジョン無き長期停止により、地域産業は甚大な影響を被り、住民は疲弊し、事態の深刻さは日に日に増している。原子力発電を重要電源と位置づける上においては、福島のみならず他の原子力発電所立地地域についても重要地域との位置づけを明確化し、短期間での回復を可能とする緊急対策を強く望む。
 一方、原子力発電所立地の地元経済界として、受動的な姿勢に留まらず、産業振興策について主体的に検討を深めなければならないことも痛感している。主たる産業を原子力発電事業としながらも、産み出す付加価値を変えるべく福井県は全国に先駆けて「廃炉・新電源対策室」を設置し、廃炉ビジネスを含めた新たな地域産業の模索に着手した。我々もこうした動きと連携しながら、「原子力Plus」の視点で、原子力産業に加え、地域が主体となって地域価値を高める新たな振興策を協議していく方針である。

3.北陸新幹線県内延伸へ連携強化

 北陸新幹線の金沢開業を1年強後に控え、本県を取り巻く経済環境は決して楽観すべき状況にはない。当会は、昨年10月、「北陸新幹線金沢開業に向けた福井が取るべき対策 ルックイースト&ルックウェストへ」と題する緊急アピールを県、福井市に提示する一方、各方面に配布した。金沢まで来た観光客やビジネスマンを、ただ福井まで誘客しようとするだけでなく、福井を関西と北信越を結ぶ西の玄関口として再定義することの必要性、そしてその玄関口にふさわしい県都のブラッシュアップ、敦賀延伸の工期前倒し、福井駅先行開業の実施までを強く提言した。
 これに対し福井県は、金沢―福井−敦賀間の工期短縮について3年前倒しの可能性を公表し、こうした官民一体となった意見は、自民党を始め徐々にではあるが国においても認識され始めている。我々は関係各機関との連携も強め、提言の実現に向けた動きを県内全体の活動へと発展させていきたい。また、国は北陸新幹線の敦賀以西ルートの決定に対して福井県主導による関西各府県との議論を求めており、県内での議論を深める場合には協力を惜しまない。
 更には緊急アピールに記載しているように、ハード面の対応だけでなく、ソフト面での対応を急ぐ必要がある。
 即ち、2018年の福井国体開催や、北陸新幹線福井駅開業に合わせて、官民が一体となった"おもてなし運動"を展開するすべきであると考える。運動の名称は「思い出なぁ〜越前・若狭」を提案する。先進地視察などを踏まえた結果として、具体的には行政、教育機関、スポーツ団体、経済団体、観光関連団体などが協力して「福井県民おもてなし協議会」(案)を設置する。各参加団体・企業は、県外からの来訪者への挨拶運動、宿泊先や食事処での思い出なぁ〜一品サービス接待、観光列車と連携した思い出なぁ〜ウエルカム運動など、老若男女・県民あげて参加できるおもてなしのアイディアを考え、県民運動として全県的に実施することを提言したい。

4.県都ブラッシュアップへの協力

 北陸新幹線の延伸、福井国体の開催などを控えて、県都にふさわしい福井市のまちづくりが求められる。先にも触れた提言「ルックイースト&ルックウエスト」の中では、にぎわい創出とともに県庁、市役所を早期に分散移転し、北陸の西の玄関口として相応しい県都づくりを目指すべきであると提案した。
 福井県が小さな県であることを強みと捉え、大都市圏と比べて行政と民間の関係が近く、そして密であることから、両者を強力に繋ぎつつ特性を活かして、福井ならではの都市が生み出せたらと希望する。交流人口が増え、住みやすさが増し、若者が住みたいと思い、福井県民が活力を体感できる県都であるべきである。

5.福井型キャリア教育の創生

 当会は昨年4月、「人口流出から還流へ〜U・Iターンを地域の持続的な成長につなげるために〜」と題した提言をした。キャリア教育の一環として、教育委員会、福井青年会議所、福井商工会議所青年部などにより各々で実施されていた職場体験学習が、官民一体となって内容を充実させる試みへとつながり、その中でキャリア教育制度全体をコントロールする主体の不在が問題点として浮き彫りになり、学校に過度な負担がかかっている現状も見えてきた。今後は問題点の改善を図り、実施対象の拡大、対象地域の細分化などを進め、キャリア教育がより充実することを望む。ふるさと教育などを通じて郷土愛を醸成し、また地元企業の魅力に気付かせる機会をもち、U・Iターンの増加につなげる仕組みづくりへと、一層の進展を図っていきたい。


 当会は「基本的態度」に、高い志と見識、品格・品性を兼ね備えた経済人として、利害を離れた立場で自由闊達に論議し、積極的に発言し行動することを掲げている。その志は常に我々の心の中に生きている。2014年の年頭所感のタイトル「志々存々」には我々の原点としての思いを込めた。同時にその志を未来を担う子、孫へと、まさに「子々孫々」へとつなげていくことも我々の使命である。我々はこの二つの使命を忘れず、実効性のある提言を世に問いながら、先人や諸先輩方が営々として築き上げてきた福井をより活力ある地域にするために、高い志と気概を持って福井の諸課題、自らの経営課題に取り組み、将来の福井人である子や孫に繋げていくという我々の責務を果たしたいと考える。

以上