活動報告

年頭所感

福井の強みで閉塞感を打ち破れ!〜世界ブランドFUKUIの戦略モデル構築〜

福井経済同友会   
代表幹事 玉木  洋
代表幹事 増田 仁視


 米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機が株式市場の混乱や通貨危機を招き、世界の市場は崩壊の危機に瀕した。その影響は実体経済にも及び、消費の低迷、需要の縮小、失業率の増大などに波及し、世界経済は同時不況に陥った。
 暴風雨のような経済の混乱に巻きこまれた県内経済も、世界経済の減速や急激な円高などの逆風のもと、輸出関連企業の受注減少による操業度の低下、消費者マインドの悪化による内需関連企業の業況悪化など、更に厳しい経営環境が予想される。

 こうした未曾有の景気悪化に加え、少子化による人口減少、高齢化による活力低下、グローバル化による国際競争の激化、道筋のつかない財政再建など多くの課題を抱え、地域の閉塞感は日増しに強まっている。まさに、我々の知恵と工夫でこの閉塞感を打破する時にあり、企業においてもこの不況を逆に好機と捉え、福井の強みを活かして積極的にイノベーションに挑戦する時である。
 一方、人と人との絆と同様、地域と地域の強い絆も必要である。翻ってみれば、嶺南と嶺北は、歴史的過程や地理的条件から固有の文化・風土が育ってきた。この違いのある強みや個性をそれぞれに発揮し、連携・連帯することで、地域力は更に高められる。道州制の議論が高まる中で、嶺南と嶺北の一体感、連帯感を早急に醸成するために、これまで以上の対話と交流が必要である。


1.福井の強みを発揮するためのシンクタンク提案

 地域の様々な課題を解決し、夢のある新たな地域経営の戦略モデルを構築するためには、知恵を集めるためのシンクタンクが必要である。このシンクタンクは、産と学と官の協働により機能し、これまでのような行政がイニシアチブを取るのでなく、民が主導し、学や官がサポートする組織である。
 福井県内には、大学、行政、各団体などに多くのシンクタンク機能を持つ組織がある。しかしながら、これらの組織は個々に活動を展開してはいるものの、協調しながら地域課題を総合的に取り組むことには不足している。これらの組織を有効に活用するためには、地域戦略性の視点からネットワーク化し、コーディネートする機能を持った新たな組織が必要である。先ず何よりも行政改革、財政再建、地域振興、まちづくり、広域観光、産業振興などの地域課題が山積している中、住民、企業、NPO、諸団体、大学、行政など、多くの組織の活動のベクトルを揃える時にきている。

2.我々の活動

  1. 「原子力」の強みで、「エコ立県」と人材育成の国際総合エネルギー研究機関へ
     福井は原子力の諸施設や人材が集積しており、この貴重な財産を積極的に活用し、世界の中で独自性を発揮するために「エコ立県」を目指すことが必要である。福井県が身近に有するこれらの財産は、活用次第でエネルギー先進県として他地域と差別化を図り、地域活性化の梃子としての役割を果たすことができる。それには、県内の多くの原子力研究関係の機関を、人材育成も兼ねた国際総合エネルギー研究機関として発展させ、福井を「エネルギー研究のメッカ」として世界に情報を発信することが必要である。
     原子力エネルギーの持つ可能性は単に発電だけに留まらず、農業、漁業、医療、環境保護など多方面に亘る。原子力研究の地域間競争に打ち勝って「もんじゅ」後継の実証炉を誘致し、さらに国内外の人材を集めることで国際貢献することは、定住人口や交流人口の拡大にもつながり、波及効果も大きい。また、原子力が地域に貢献していることを正しく評価し、原子力研究の発展により、福井が世界のエネルギー問題の解決に最も貢献する地域として評価されることを認識すべきである。そのためには先ず、実証炉を始めとする研究開発施設の福井誘致に、福井県及び関係機関が前向きに取り組むよう働きかけていきたい。
  2. ものづくりの強みで、多機能・複合化した新福井型産業の創出へ
     福井経済の活性化は、企業の活力如何にかかっている。この活力は新しい環境への適応から生み出される。地場産業の繊維業界や眼鏡業界では、これまでに培った技術を応用し、新たな市場を開拓した成功例が多い。このビジネス展開をモデルとして、福井の特質を活かした産業構造の転換をはかることが必要である。福井のものづくりの伝統や技術は連綿として流れており、先進的な事例を手本とし、更なるイノベーションに挑戦することで活路は開ける。こうしたイノベーションの創出には、産・学・官の交流や連携に一層取り組むことが必要である。加えて、福井の企業同士の横の連携を高め、行政の購買支援強化により、県内企業で生産された製品・サービスを行政及び県内の企業が購入する産業面での地産地消を進めることも必要である。
     今、消費者の目は、環境問題や食への安全・安心に対して厳しく注がれている。海や山の幸に恵まれている福井は、長い歴史の中で独特の食文化を生み出してきた。こうした農業や漁業が育んだ福井の食に新たな付加価値をつけ、消費者に届けるシステムを作り上げることは、新たなビジネスモデルとなる。福井の資源を活かした、農・商・工・流通・観光などが連携する多機能・複合化した新福井型産業の創出に取り組むことが必要である。
  3. 教育力・女性力の強みで、人間力と知的生産性を高める仕組みと風土づくりへ
     地域づくり、企業づくりの根幹は人づくりである。その人づくりの基盤となるのが人間力の育成である。福井県は学力全国トップクラスの教育力を誇っている。この高い教育力を活かし、21世紀の知識基盤社会にかなう「自ら考え、行動する」人間力の育成でも先進の学校教育づくりを期待したい。また、企業は職業専門スキル習得に重きを置いた人材育成を進めてきたが、今後は職業専門スキル発揮のベースとなる人間力を育てることも必要であり、そのための企業内育成プログラムを早急に構築・実践することが必要と考える。
     今後、地域を支える担い手が減少し、企業の労働力確保が困難となることが予想される。地域経済の成長をカバーするためには、生産性の向上が必要であり、人材の質的な向上がとりわけ求められる。福井県の共働き率は全国トップであり福井県の女性力は高い。しかし、その反面、女性の管理職登用率は最下位である。女性が能力を充分に発揮する場を提供できないことは、経済的にも、社会的にも大きな損失である。女性の意識を高めることも必要であるが、企業でも、地域でも、女性の活躍を支援する新たな仕組みづくりが必要である。
  4. 経済同友会の強みで、企業価値の創造と次世代経営者の育成へ
     我々は、会員に対し企業価値の創造に有効な情報を発信する活動を更に強化する。また、地域のイノベーションを創出する人材を育成する活動にも取り組む。当会は、一昨年来より若手会員の交流・研鑽・連携の場として次世代イノベーション委員会をスタートさせた。今後、交流・研鑽・連携の実践が企業同士の連携に発展し、相互に高め合うような経済人の人づくりの場としたい。


 世界経済が混沌としている中で、地域の活力を担う我々の使命は一段と重要性を増してきた。我々は、「立国は私なり、公に非ざるなり」(福沢諭吉)の精神で、自立した高い志でこの困難な局面に正面から立ち向かっていきたい。

以上

(注1)「エコ」:EcologyとEconomy。「Eco」の語源は同じ。
(注2)「実証炉」:高速増殖炉・原型炉「もんじゅ」の後継炉。「2025年頃までの実現を目指す」ことが「原子力立国計画」の概要に盛り込まれている。
(注3)「人間力」:2007年に経済産業省が「社会人基礎力」として定義した「人間力」には、「前に踏み出す力(アクション)」、「考え抜く力(シンキング)」、「チームワークで働く力(チームワーク)の3つの能力と細分化された12の要素で構成されている。