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産学官協育で築く福井の未来〜企業づくり、地域づくりは人づくりからを活かした地域の経営モデルと新たな地域ブランドを〜

福井経済同友会   
代表幹事 玉木  洋
代表幹事 増田 仁視


 「戦後50年の高度成長期は躁の時代であったが、今は鬱の時代である。『鬱』という文字を辞書で調べると、『草木の茂るさま。物事の盛んなるさま』という意味だそうだ。しかしながら、同時に『その生命力やエネルギーが抑えつけられていて、個性や能力が十分に発揮されていない状態』でもあるそうだ。『躁の時代』の経済学は『対前年比』や『量』が重視され、『鬱の時代』の経済学では、『人間性の充実』と『質』が重要視される」と、作家の五木寛之氏は随想「新・風に吹かれて」の中で述べている。(週刊現代 平成19年12月22日・29日号)
 まさに慧眼である。本県では、卓越した経営組織を表彰する日本経営品質賞に平成18年度、19年度と2年連続で福井経済同友会の企業・組織が選ばれ、「福井県は経営品質の最先進地」と全国から評価されるに至った。鬱の時代に求められる経営を真に実践している両組織の経営姿勢から学ぶことは多い。

 我が国は、本格的な少子高齢化時代を迎えて人口減少による地域の支え手減少、グローバル化の進展による国際競争の激化、IT化による社会構造や生活環境の変化、巨額の財政赤字による国民負担増大の懸念、社会保障制度への信頼度低下など、多くの対応すべき課題に直面している。
 一方、これまでの右肩上がりの経済成長と人口増加によって成り立ってきた地域のシステムは、ここにきてあらゆる面で機能低下しつつある。少子高齢化と人口減少の流れは最早止めようがなく、このことを前提とした地域の活力創造が喫緊の課題となってきた。片や東京や大都市圏には人口集中が進み、片や地方の過疎化は予想以上に進行している。今、限界集落がクローズアップされ、地域コミュニティの崩壊も取り上げられている。このような地域間格差が拡がる中で地域の活力をさらに高めるため、知恵と工夫による自立した地域づくりに早急に取り組むことが求められている。
 こうした困難な課題を切り拓いていくには、企業にとって、地域にとっての宝となる人に託さざるをえず、人づくりしか途はない。


○企業づくり、地域づくりは人づくりから

  1. 企業をめぐる変化と人づくり
     グローバル化により一段と激しさを増した国際競争において、企業は独自性を高め、価値創造することで勝ち抜いていかなければならない。企業の独自性を高め、価値創造する源泉は人であり、しかも独創性のある人材が求められている。福井はものづくりが盛んである半面、小規模製造業や商業・サービス業は振るわないと言われている。こうした企業は特に感性価値を持った人づくりに積極的に取り組み、そして育んだ人材を活用して独自性を発揮することで生産性を高め、競争力を強化することが必要である。
     一方で、経営品質向上に取り組んでいる組織は、例外なく理念やビジョン実現のための人づくりを究極の経営戦略として位置づけ、経営幹部のリーダーシップや組織の社会的責任、顧客満足の実現とプロセスマネジメントとの整合性をはかっている。こうした組織の経営手法を県内に浸透させ、人づくりの裾野を広げることにも取り組んでいかなければならない。
     勿論、産学官の次世代を担うリーダーとの対話・連携の機会を増やし、次の経営者を育てることも忘れてはならない。
  2. 地域をめぐる変化と人づくり
     「官から民へ」、「中央から地方へ」と国を挙げて取り組んできた構造改革は、ここにきて後戻りの懸念が生じてきた。また、市町村合併により県内の基礎的自治体数は半減したものの、合併の目的であった行政の効率化、財政再建は緒についたばかりである。地方行財政改革の進展とともに道州制が俎上にのぼり、より地域の自立が求められる中では、地域の独自性を高めることがますます求められている。
     福井は、原子力に関し、集積した施設、技術力、研究力、人材など有形、無形の価値ある資産を多く有している。また、恐竜の化石の大半は福井で出土し、研究も盛んである。このような最古のロマンである奥越の「恐竜化石」、歴史のロマンである丹南の「越の国大王から幕末維新までのものづくり人間文化」、最先端のロマンである嶺南の「原子力エネルギーと世界貢献」など、一連のロマンを物語りにし、福井ブランドとして発信することが、嶺南と嶺北の連携・一体化、地域への誇りや交流人口の拡大につながるのである。
     今、地域は様々な課題を抱え、窮している。こうした課題に立ち向かい、地域が独自性を発揮して自立を成し遂げるために、洞察力とビジョン、地域への熱い想いと高い志、そしてリーダーシップを持った人材の育成に急いで取り掛からなければならない。
  3. 求められる人材と人づくり
     企業、地域を支える人に求められるのは、人間力、独創力、世界の中の福井を見据える力である。こうした人づくりの帰趨は我々の将来を左右するものであり、産学官が一体となって「協育」に取り組むことが必要である。
     豊かな時代に生まれた世代は、餓えることもなく成長してきた。それ故、目的に向かう行動力(挑戦力、再起力、持続力)、思考力(想像力と創造力、論理力)、社会対応能力(チームワーク力、コミュニケーション力)などから成る人間力が、特に求められている。
     さらに、企業の国際競争力を高めるにはまず海外で活躍できる人づくりが必要である。グローバル化、情報化のスピードは速く、世界はより身近になっている。これからは、日本の中の福井でなく世界の中の福井を見据え、海外へ出て行く国際人を育成することが不可欠であり、子供達の海外への夢を海外研修や留学などで現実化するよう企業、地域、学校などで支援することに取り組まなければならない。
  4. 人づくりを支える社会や企業の環境づくり
     企業や地域で人づくりに取り組むには、それぞれに環境整備が必要である。
    企業では労働力確保が大きな経営課題となりつつあるが、高齢者や女性の活躍に期待するところは大きい。そのためにも、従業員自ら考え行動し、成長が実感できるような働きがいのある職場を提供することが必要である。同時に、「企業の将来は人づくりにあり」との意識を、経営者も含めて徹底することが重要である。
     また、福井県の共働き率は全国でもトップクラスの高い状況にあるものの、女性の管理職登用率は極めて低い状況にある。企業内での環境が整備されていないことや、子育てや家庭での負担などにより女性自身が昇格・昇進を望まないことも原因として挙げられている。こうした女性の意識を払拭するとともに、我々経営者自身が意識を変えることも必要である。
     一方、地域が独自性を発揮するには、他地域と同等の社会基盤の整備が不可欠である。特に、福井県内は交通基盤の整備が他地域と比較して遅れている。北陸新幹線を始め、中部縦貫自動車道、舞鶴若狭自動車道などは地域経済社会の活性化に欠かすことができないものであり、一刻も早い整備が必要である。

○「人づくり立県」を産学官協育で推進

 企業にとって、地域にとって人は最大の資産であり、企業内の人づくりの成果を地域に還元することも忘れてならない。こうした貢献で更に人は育ち、地域は活性化するのである。そして、誰もが夢にチャレンジしながら、資質・能力向上に努め、自己実現を果たしていく風土を一刻も早く構築していかなければならない。
 我々は、知恵と工夫による自立した地域めざし、「原子力立県」、「経営品質向上」、「CSRの真の実践に向けて」、「福井型教育システムの創造」など福井の特性を活かしたこれまでの提言に加え「人づくり立県」を更に強調して、産学官が共に手を携えて人材育成する「協育」を強く進めることが、福井の未来を築くことに繋がるものと確信する。