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「福井」の価値創造ビジョンめざして〜独自能力を活かした地域の経営モデルと新たな地域ブランドを〜

福井経済同友会   
代表幹事 今村 善孝
代表幹事 玉木  洋


 日本は、2005年を境に人口が本格的に減少する時代を迎えた。少子化は最早止め様がなく、将来の経済社会の展望に深刻な不安を与えている。仮に出生率が回復しても、当分の間は人口減少が続くものと考えられている。少子化として、晩婚化や非婚化、高い教育費などさまざまな原因が考えられるが、子供が減り、若者が減り、働き手が減る中では明るい展望は描けず、将来に対する不安は募るばかりである。ことに、現在の社会保障制度では、働く人が少なくなり、ますます増える高齢者を支える仕組みが成り立たなくなる。経済面でも、国際競争が激化する中で、労働力の減少による経済成長の鈍化、消費市場の縮小など多大な影響が予想される。

 地域においても同様に、地域を支える担い手が減少していく。このことは、地域経済の成長鈍化、地域社会の活力低下、財政難など広範でかつ深刻な影響を及ぼすことが懸念される。加えて、国が面倒を見切れず、地方分権化がますます進む状況のもと、地域間の競争は更に激しくなり、格差はより鮮明となる。
「福井」が多くの地域課題を克服し自立するには、独自能力を発揮した地域の経営モデルを一刻も早く構築する必要がある。それにはまず、活力と魅力に溢れた「福井のあるべき姿」を描き、福井の「個性」と「強み」を活かした地域戦略を立てることである。幸いにも、「福井」には自然、産業、歴史、文化、風土など地域の宝となる有形無形の原石が数多く埋もれている。この原石を磨き上げ、新たな「福井ブランド」として全国に発信していくことが欠かせない。
また、年頭会見において西川福井県知事は、県政第2期目のマニフェストへの取り組みの方向として、量から質への進化の姿勢を示していることは、地域経営・企業経営のクオリティ向上を目指している福井経済同友会の方向性とも一致している。この姿勢を積極的に受け止めて、産官の対話の中から、早急に「福井」の価値創造のビジョンづくりに着手したい。

我々の活動

○交流・対話から連携強化に向けて

 人口減少が進展する中では、地域内の緊密なコミュニケーションが大切である。当会では、対話と交流により、会員相互、地域、行政、教育関係などとの連携強化を図ってきた。これを更に進め、政策提言集団としての独自性を発揮しながら、よりよい質の高い情報を発信していかなければならない。特に、経済界の次世代層と交流をはかり、地域課題について認識を共有化しながら連携を強めることが欠かせない。
 併せて、当会は「会員にとって魅力ある会であるためには」を基本に、会員相互の切磋琢磨の場として、相互啓発の場として、情報交換の場として、会員自身に資するよう一層めざしていきたい。

○持続可能な発展めざした企業経営

 我々は、人口減少下においての地域経済を活性化させる責務がある。そのためには、独自の商品・サービスの提供により競争力を発揮し、企業活動を通し地域に貢献することが求められている。
 我々は信頼される企業めざしてCSR(企業の社会的責任)に取り組んできたが、経営の拠り所は最も身近な社訓・社是に込められている。この経営理念を社員に浸透させ、日々の業務につなげることが企業価値の創造と独自性の発揮につながる。言わば、経営理念の実践が競争力の強化につながるのである。
 労働人口が減少する中では、労働力の確保は急務である。高齢者や女性など多様な人材が活躍できるよう環境整備をするとともに、仕事の専門能力や人間力を最大限に活かす組織能力や人材育成の方法を進化させなければならない。
 一方、福井はエネルギー拠点地として蓄積された技術や人材を有している。
 この強みを活かして地域産業への技術移転を進め、新しい産業分野・新事業を創出することが喫緊の課題である。そのためには、現在、福井県内で個別に活動している産学官連携の関係組織を一つにまとめた、「福井県産学官連携推進機構」を構築することが必要である。ニーズとシーズをより有効にマッチングさせる産学官連携組織の一本化は地元への技術移転に大きく貢献すると言える。

○活力と魅力に溢れた地域づくり

 人口減少や地域間競争が激しくなる中では、地域力を高め、活力と魅力に溢れた地域のあるべき姿、ビジョンづくりが急がれる。
構造改革により規制緩和が進展したことが「格差」社会を生み出したとの主張も聞くが、地方行財政改革の取り組み度合いにより、地域間の格差が更に拡がることも予想される。財政を健全化した自治体は、住民ニーズに沿ったサービスが提供できる反面、財政基盤の弱い自治体は満足のいくサービスができず、住民に大きな負担だけを強いる。財政破綻にでも陥れば、住民は逃げ出し、税負担能力の低い高齢者だけが取り残され、地域は崩壊することとなる。
財政力を強化するには、一定の人口を基盤とする広域行政化が不可欠である。市町村合併による更なる広域行政の拡大が、財政力を強め、住民の生活基盤を強固とするのである。
 地域のあるべき姿を具体的施策として推し進めるには、自治体経営者が経営意識をより高めることが必要である。地域戦略を描き、あるべき姿を施策として具体化しながら、行政の効率化や財政再建などの課題を解決するには、これまで以上の意識改革や行動力が求められる。今春の統一選挙に立候補する首長・議員には強くこれを求めたい。
 一方、地域力を高めるためには、福井県の嶺南と嶺北の連携強化による一体化が欠かせない。それぞれの地域特質を活かした、一体化による相乗効果を発揮しなければ福井の未来はない。
 こうした地域が活力を増し、地域力を高めるためには、産学官の結集力を更に強めなければならないが、特に大学の知の創出により地域貢献の役割を強化することが必要である。

○地域の教育力を高めるための連携

 少子化が進む中では、子供は地域の一層の宝となる。地域の未来は、郷土を愛し郷土に誇りを持つ人づくりにかかっている。
 地域の教育力は、学校、家庭、企業、行政、地域の人々が連携し、それぞれが課せられた役割を果たすことから生まれる。地域における教育力の低下が、いじめ、不登校、ニート、フリーター、少年犯罪の増加を招いている。今こそ、学校だけでなく、地域も企業も親も自らができることを真剣に考える時である。
 そうした中で、我々は、教育について批判し憂うのではなく、経済人として積極的に「先生づくり・親づくり」に関与していかなければならない。企業は、教員研修の受入れや親の働く姿を子供たちに見せたり、子供たちに体験学習させるなど、職場を教員や親や子供たちの教育の場と捉え、さまざまな機会を提供することが期待されている。
 今、「いじめ」問題を懲罰により解決しようとする動きがあるが、懲罰を制度化しただけでは解決は困難である。人間としての根幹である「思いやり」や「慈しみ」など相手を慮る人間力を育まなければ、何ら解決はしない。我々自身も含めて地域が一体となり、人づくりに積極的に参画しながら解決をはかっていく問題である。


 我々は、少子高齢化時代を迎え、それが引き起こすさまざまな課題や問題に挑戦していかなければならない。徒に悲観的にならず、何がどのように変化するのか、それに対して何をなすべきかを見極めることが必要である。地域の現状を見据え、持続的に発展する地域経済社会めざし、高い志で果敢に取り組んでいきたい。