活動報告

定時総会・記念講演

平成19年度定時総会・記念講演

日時 平成19年5月16日(水)14:00〜18:00
会場 ユアーズホテルフクイ 芙蓉の間

 平成19年度定時総会が会員118名の出席のもと開催された。一昨年の11月1日に創立50周年の節目を迎え、今年度は更に躍進を期する定時総会として盛大に挙行された。
 総会では、今村代表幹事の開会挨拶の後、恒例による新入会員のご紹介と挨拶、続いて、今村代表幹事が議長となり議事を審議した。まず、平成18年度事業報告、収支決算、特別会計収支決算を事務局から報告し、その後、会計幹事からの監査報告があり、原案通りに承認された。そして、平成19年度事業計画の説明が行われ、「『福井』の価値創造ビジョンめざして〜独自能力を活かした新たな地域の経営モデルと地域ブランドを〜」を掲げ、高い志で、対話と連携を重ねながら事業に取り組むことが承認された。続いての定款の一部改定、役員推薦案が承認となった。
 記念講演は来賓や会員企業の社員も聴講し、180名を超すなど大いに盛況であった。中部経済同友会の特別幹事・直前代表幹事で株式会社豊田自動織機の石川忠司会長に、「ものづくり、ひと・こころづくり」と題し、「ものづくり」と「ひと・こころづくり」を経営の基軸とした実践的、且つ示唆に富むお話は 非常に感銘を受けた。特に、職場力を高めるために、固有の技術、管理技術、和の心の3つを融和させ、オヤジの強いリーダーシップで職場の力を引き出していくことが必要であるとの話は、心に残った。また、コミュニケーションの大切さ、「車座」「1対1のコミュニケーション」などについても、啓発された。
 (講演要旨 別掲)
 そして、交流パーティでは、山本福井県副知事を始め、坂川福井市長、福田福井大学長、祖田福井県立大学長、城野福井工業大学長や産学官の主だったご来賓の方々をお迎えし、交流と連携で大いに盛り上がった。

 

 

中部経済同友会 特別幹事・直前代表幹事
株式会社豊田自動織機 取締役会長 石川忠司様の講演要旨

テーマ:「ものづくり、ひと・こころづくり」

 講演は、1.見逃してはならない世の中の変化、2.大企業の抱える問題、3.中小企業から学ぶこと、4.職場力の4つからお話された。

1.見逃してはならない世の中の変化

 バブル崩壊に伴い倒産やリストラが増えた。1990年と2005年を比較すると、不登校2.0倍、フリーター2.3倍、自己破産19倍、児童虐待31倍などマクロ経済の変化とともに世の中も大きく変化した。昔は雇用が安定していたことから、学校卒業後会社に入り、一軒の家を建て、子供を育てるという、ささやかではあるが安定した希望のある社会であった。しかし、今は働く場所が限られ、かっては叶えられた夢が実現できなくなってきた。子供たちに、「あなたが大人になる頃、日本の社会(暮らし)は良くなっているか」と聞くと、良くなるとは思わないと答える人が多い。夢を持てない子供たちが増えている。これは、親、企業、社会のせいである。我々は自戒しなければならない。
 リストラ、倒産、採用抑制、雇用不安、格差拡大などに少子化、高齢化が相俟って様々な社会問題をひき起こし、こうした溶解する日本で、企業が国際競争力を強化するためには、した支えする職場の力を取り戻すことが必要ではないか。また、日本が溶けてしまいつつある中で、何とか手を打つ必要があるのではないか。
 日本の人口は、50年後には1億人になると想定され、2800万人が減少する。人口構成面では、50年後には15歳未満は11%となり、65歳以上は36%となる。 子供が減っていく中で、高齢者が増えていく。労働人口も、2015年までに410万人減る。しかし、フリーターの就業支援、女性の仕事と家庭の両立支援、高齢者の活用で110万人の減少にとどめることが可能である。
 企業を支える「人」の環境も大きく変化した。一番は価値観の多様化である。こうした価値観の違った従業員とどう向き合っていくか。現場では、職場運営が複雑で難しくなってきている。

2.大企業が抱える問題

 労働組合の組織率や組合活動に対する関心度の低下から、労働組合では様々な問題をすくいきれず、職場のリーダーに頼らざるをえない。また、中部地方の大企業の課長クラスに「職場における問題点」をアンケート調査すると、第一位は、「職場でのコミュニケーションが不足している」であった。また、「職場リーダーの悩み・不安」は、「業務が多忙で部下をフォローする時間がない」が、突出していた。また、「現場リーダーになりたいか」は、「リーダーになりたくない」が25%あった。いかにリーダーに魅力がないかを示している。その理由は、「業務が多忙である」であった。先ほどの「業務が多忙で部下をフォローする時間がない」と考え合わせると、問題がどこにあるかがわかる。

3.中小企業から学ぶこと

 中部経済同友会では、「ベストプラクティス企業調査」を実施し、優良な中小企業の訪問などで強さの秘密を探った。現場へも出向き、強さの秘密の共通点がわかった。@創業者の生き様、想い、熱い心Aひとづくり、こころづくりに工夫があるB他社が真似できないオンリーワン技術をめざして、ものづくりを進化させている―の3つの点である。つまり、「ものづくり」と「ひと・こころづくり」を両輪として進むべき方向を定めている。創業者の生き様、想い、トップの熱い心を実現する場面が、「こころづくり・ひとづくり」であり「ものづくり」である。
 また、優れた中小企業のトップのお話や現場見学などで学ぶ点が多々あった。@社長は製品、技術、建物、従業員など全てを掌握A社長自らの人生観、哲学が経営理念に直結Bオンリーワン技術をめざすC社長はあらゆる出会いの場で、従業員一人ひとりと対面D社長は従業員を家族のように思い、わが子のように慈しむE従業員は、社長を家長のように慕い、信頼F客様の顔が見え、お客様からも担当者の顔が見える―などであった。
 これらをまとめると、「経営理念」「工夫をこらしたコミュニケーション(車座、1対1のコミュニケーション)「リーダーシップ(オヤジ)」となる。「経営理念」は、創業者の想いをいかに共有するか、伝えていくか。「コミュニケーション」は、心が通い合う職場をつくるために、いかに上手にやっていくか。「リーダーシップ」は、職場を束ねる強いリーダーをどう育てるかである。

 「コミュニケーション」は、職場では「歓送迎会」「懇親会」「職場レク」などが行われているが、私が最も大切だと思っているのが「車座」である。オフサイトで、聞き上手になり、仕事上や身の上相談を聞き、無礼講でやる「場」である。
 また、個別に本音を引き出すため、「1対1コミュニケーション」を何回も繰り返して行うことも重要である。家族を含めたコミュニケーションは、家族工場見学会がある。労使共催で行うが、奥様や子供たちは、父親の現場で働いている姿を見て、父親を見直しし、尊敬するようになる。また、家族、地域も含めたコミュニケーションは、夏祭り、駅伝大会、運動会などで工夫している。夏祭りは従業員や家族、地域の人たち2万人が集い、盛況である。地域とのコミュニケーションは、地域と共催の盆踊り大会、刈谷市の万燈祭り(まんどまつり)などがある。課題としては、参加率の向上、レクリーダーの育成、テンポラリーの人たちの巻き込みなどが挙げられるが、継続していくことで、従業員も職場、工場に愛着が湧いてくるのである。
 「リーダーシップ」については、強いリーダーシップを発揮するのは「オヤジ」だと思っている。「オヤジ」のイメージは、@誰にも負けない腕A面倒見が良いB怖いけど親身C背中で育てるDいつか自分もこうなりたいという憧れ―などである。今は「オヤジ」と呼べる人が少なくなってきている。オヤジをどう育てるか、増やすかは、重い課題である。
 「経営理念」については、私どもの会社の概要をまずお話する。繊維機械が発祥であるが、売上高比率は3.1%と低い。自動車関連が約半分の48.2%である。大英博物館には、豊田自動織機G型が展示されている。豊田佐吉の発明であるが、この機械は、異常があったら機械が止まる、そして後工程に悪いものを流さないという思想につながっている。これが、トヨタのDNAとして今に到っている。豊田喜一郎さんは、豊田式自動織機の権利をイギリスのプラット社に譲渡し、100万ポンドを得た。このお金で豊田自動織機に自動車部をつくり、何年か後に独立してトヨタ自動車工業ができた。
 当社の社名は、6年前に「豊田自動織機製作所」から「豊田自動織機」に変更した。トヨタのルーツでもあり、トヨタが発展していった設計思想を忘れてはいけないことから、「自動織機」は取らなかった。また、社祖の豊田佐吉から脈々と伝えられた「豊田綱領」には、「産業報国」「研究と創造」「常に時流に先んずべし」「華美を戒め」「質実剛健」「家庭的美風」「報恩感謝」などが掲げられているが、これからも大事にし、引継いでいきたい。また、豊田章一郎トヨタ自動車名誉会長は、@世のため、人のためになることをするA人のやらないことをやる。人まねはだめB現地現物、愚直―をよくお話される。
 こういうことを、従業員に刷り込んでいくことが重要であると思っている。

4.職場力

 「職場力」とは、固有の技術(専門技術、技能やノウハウなど、いわゆる「腕」)、管理技術(TPS,QCなど問題を発見して改善する力、多層の力をまとめる力、ITなど、いわゆる「知恵」)、和の心(チームワークや豊かな人間性)、この3つの輪が織り上げる組織能力が「職場力」である。この3つの内、「和の心、交わりのコミュニティ」は非常に大切でもあるにかかわらず、ともすれば埋もれがちになる。特に重要なのが、「車座」「1対1のコミュニケーション」である。
 そして、この3つの輪の中心で、強いリーダー、つまりオヤジがリーダーシップを発揮することで、職場の力を最大に引き出すことができると考えている。バブル期以降、リーダーは「プレイングマネージャー」となった。人を育てる時間を与えられていないことから、人材育成に偏りがあったり、育成がされていない世代が生まれることとなる。このようなことに対し、時間を与えて育成させる、部下の育成を最大限に考える人を配置、職場の長をラインから外すなどに取り組んでいる。

5.最後に

 一人一人の期待可能性について、愛知県の公立高校(鶴城丘高校)の校長から手紙をもらった。この校長先生は、当社の元社員で、産業車両工場の製造課長から3年前に校長となった。愛知県で始めてである。この手紙を紹介する。
 「ある生徒が入学したが、不登校で200日程欠席していた。入学試験をギリギリで合格した。演劇部に所属していたが、先輩が2名しかおらず、廃部の予定であった。その生徒は校風に合ったのか、自ら部員を集め友達を引っ張り始めた。
部長ともなり、毎日遅くまで膝つきあわせワイワイガヤガヤとやっていた。まさしく「車座のリーダー」となった。そして、演劇部は、地区代表として県大会にも進み、全国大会の候補にもなった。同時に、成績も1番となり、東大も充分に入れるほどとなった。
 ここで伝えたいのは、まともに学校さえ行けなかった生徒が、部活のリーダーとなり、自分の目標を持った時、すばらしい成長を遂げたということである。私たちは、もっと可能性を信じるべきであると教えられた次第である」

 最後に、どこの講演会でも申しあげている、山本有三の代表的な作である「路傍の石」の中の文を紹介いたしまして、講演を終わりといたします。ご清聴ありがとうございました。

山本有三の代表的な作である「路傍の石」の中の文