活動報告

年頭所感

変革への挑戦 〜前例なき時代の新たな価値創造めざして〜

福井経済同友会   
代表幹事 増田 仁視


 先進国の経済成長にかげりが見えてきた中で、中国、インドを中心とした新興国は、旺盛な需要と高金利を求めた先進国の民間投資マネーの流入により、地球規模の大発展時代とも呼ぶべき成長を遂げつつある。こうした前例のない時代を迎え、日本国民は国を開き、世界に打って出る気概と覚悟が求められている。
 一方、我が国の財政はソブリンリスクが懸念されるほど悪化し、財政再建の道筋を明示できない状況にある。租税収入を上回る新規国債発行で予算を今後も編成し続けるのは困難であり、財政破綻につながることは自明の理である。歳入面では消費税率のアップを含む税制の抜本的改革を進め、歳出面では国ができる限界を明らかにし、将来の日本のあるべき姿を国民が議論する時にきている。もはや将来世代への負担の先送りは許されず、日本の財政問題は世界的にもその動向が注視されていることを自覚すべきである。

 既に国に頼れない状況に置かれた地方では、自らの知恵と工夫で自立を成し遂げる正念場を迎えている。関西圏や中京圏とアジアを結ぶ地理的優位性を持つ福井県は、物流・人流の中核的な拠点づくりに取り組み、大交流時代を切り拓いていくビジョンが必要である。その起爆剤となるのが、国際ターミナルが整備された敦賀港である。世界との経済交流のゲートウェイの役割を果たし、敦賀港が持つ高いポテンシャルを顕在化するためにも、3月の日本海側拠点港の選定は不可欠である。
 一方、我が県は環境やエネルギーの安定供給に貢献している原子力発電やその関連施設、研究所、人材などが集積し、世界的にも有数の原子力エネルギーの先進地域を形成している。この原子力エネルギーを核とした産業振興、低炭素社会の実現、交流人口の拡大に向けてのビジョンと成長戦略が急がれる。
 前例のない時代を迎え、これまでの価値観や仕組み、考え方はもはや通用しない。福井県が持続的に発展するためには、新たな理念のもと、固有の財産や資源を活かして成長を促し、この困難な時代に立ち向かうことが必要である。


1.環境変化への迅速な対応

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加に政府が協議開始の閣議決定をしたことから、関心や議論が急速に高まってきた。TPPは関税撤廃に留まらず、投資、人材の移動などが自由になることであり、アジアを始めとした世界経済の成長を取り込むためにも、早急に参加を表明すべきである。今、参加国間で新たな通商秩序を決めるルールづくりが進んでいるが、これに加わるとともに、国を開くことで国家の大計をはかる覚悟を持たなければならない。
 TPPへの参加は企業の経営環境にも大きな影響が予想され、個々の企業としてはこの環境変化への対応も視野に入れなければならない。自社の強みや独自性に一層の磨きをかけ、イノベーションへの新たな挑戦をめざすとともに、事業領域を絞り込むことで競争力を強化することが求められる。同時に、国内で独自性や先端技術の発揮により企業価値を高めるか、海外活動の展開で成長をはかるかの岐路にあり、確固たる経営者の明確な戦略が不可避である。

2.地域の自立と持続的な発展めざして 交流から連携へ

 人口減少、高齢化の進展する中で、地域の活力を維持しながら持続的に発展するには、国内外との交流・連携を取り込んだ成長戦略と将来ビジョンが不可欠である。福井県単独では、グローバル化の進展、広域化する経済活動、観光振興などの課題解決には限界があり、地域経営の視点からも関西広域連合の動向を睨みながら地域間連携、広域連携に取り組むべきである。
 一方、福井県内各地域の連携も欠かせない。各地域の持つ強み、個性、資源を連携による相乗効果で更に高め、福井県が一つとの意識を醸成することが必要である。嶺南各地域の一体化、嶺北各地域の一体化、そして嶺南と嶺北の一体化により福井県を一つに結集し、地域力を強化していかなければならない。また、これらをハード面から支える北陸新幹線や高規格幹線道路などの整備は、引き続き強く要請していくことが重要である。
 地域が自立し、持続的に発展するためには、自治体の基盤強化も不可欠である。
 自治体が運営体から経営体へ脱皮するためには、組織風土を変え、経営感覚を磨くことが必要である。2009年から財務諸表4表を公開して行政の見える化を進めているが、行政はなお一層説明責任を果たし、住民とともに行政の効率化、財政基盤の強化に取り組むべきである。

3.コミュニケーション能力重視 福井型教育システムの構築

 学力や体力では全国トップ級の成績を誇る福井県であるが、企業側が求めるコミュニケーション能力では他県同様大きな問題を抱え、それが昨今の低い就職内定率や高い離職率を生んでいる。コミュニケーション能力の醸成は、学校だけでなく、家庭、地域、企業が深く連携して社会システムとして構築することが必要である。
 この理想的な社会システムを構築しようとするならば、教育に対する意識が高く、三世代同居も多く、地域コミュニティの充実している福井県こそが、全国でも最短の距離にあるものと考える。社会が求める理想的な教育システム(いわば福井型教育システム)を構築し、全国に福井型モデルを発信することこそが、我々福井県人の出来得る最高の社会貢献のひとつであり、「教育県 福井」のアピールにもつながる。地域づくりの基盤となるのは人づくりである。人口減少、少子高齢化が加速度的に進む中、地域の次代を担う人づくりは喫緊の課題であり、教育行政や他多方面の関係者が、「福井型教育システムの構築」を早急に検討することが求められる。
 我々は県内大学や小・中・高校に向け、企業が求める人材、産業界の実状、就業観・職業観の育成などをテーマとして、ボランティア・プロフェッサー制度にもとづき講師派遣を行ってきた。今年度からは更に制度を拡充し、県内大学の1・2年生を対象に単位互換性を導入した講座が決定している。これを機に、次代を担う人づくりを一層進めたい。

4.Clean Energy Coastめざして

 福井県は我が国有数の原子力先進県であり、原子力を地域の宝として位置づけた将来ビジョンを描くべきである。
 平成22年6月に閣議決定された「新成長戦略」では、強みを活かす成長分野として、「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」を掲げている。安全を第一として、国民の理解と信頼を得ながら原子力利用について着実に取り組むとある。将来的には、日本のエネルギー消費の約40%を原子力発電で賄うとの試算もあり、国が進める「新成長戦略」に則り、原子力を地域づくりに活かすまたとない機会を迎えている。
 福井県が国際的な原子力の先進地域として飛躍するためには、県が進める「福井県国際人材育成センター(仮称)」を国家戦略と位置づけるとともに、原子力連携大学院の実現、研究炉の誘致、高速増殖炉の実証炉の誘致、それらに伴う国内外から集まった研究者、技術者、訓練生、留学生などが快適に過ごせる一体的な環境整備が不可欠である。今後、廃炉処理やリプレース問題が控えているが、県内企業にとっては大きなビジネスチャンスであり、県外からの民間投資を呼び込む好機でもある。特に、県内企業の原子力関連分野への進出、他県の原子力関連企業の県内進出も期待されている中、福井県は持てる原子力の資源を活かし、何ができるかを全国に発信すべきでもある。
 こうした、我々が提言したアメリカのシリコンバレーのような「Clean Energy Coast」構想の実現に向けて、国、自治体、企業、地域住民が一体となって具体的に進めることが必要である。


 「外向き、上向き、前向き」、我々は視野を広くし、自己の有する宝に自信を持ち、失敗を恐れず、果敢に挑戦する姿勢で変革に臨みたい。

以上