活動報告

年頭所感

大交流時代を切り拓く 〜ニューFUKUIの創造〜

福井経済同友会   
代表幹事 増田 仁視


 世界経済は、2008年9月のリーマンショックに端を発した同時不況以降、各国の金融政策や景気刺激策の実施により景気回復基調にあるものの、本格的な実体経済の回復には道半ばである。この影響で輸出依存度が高い日本経済は、一部持直しの動きはあるが、デフレ、円高基調、消費や設備投資の低迷、雇用情勢の悪化など、先行き予断を許さない状況にある。
 こうした景況を背景として、昨年9月には民主党政権が誕生した。「政治家主導」、「脱官僚政治」を唱え、事業仕分けの手法で政策決定のプロセスを国民に示したことは評価に値するが、最も重要な日本の未来像をどう描き、国家像実現のためにどのような成長戦略を選択するのかが見えてこない。そもそも企業においても、国家においてもめざすべき方向を明らかにすることにより、やるべきこととやらないことの決断、すなわち選択と集中が不可欠である。これまでの政権が進めてきた「官から民へ」、「中央から地方へ」、「構造改革」、「規制緩和」の方向性は間違っていないと考える。民間の活力を高め、新たな産業分野を創出し、経済の活性化や成長により富の創出をはかることは国家運営の基本である。国民は、民主党政権がどのような国家像、国の進むべき方向を描くのかを求めている。

 地域間競争がますます激化する中、国に頼らず地域の自立と持続的発展を成し遂げるには、地域の強みや個性を活かした将来ビジョンや成長戦略が求められる。成長著しい東アジアと歴史的、地理的に関係の深い福井県は、我が国日本海側地域の中心部に位置し、関西・中京圏と隣接している。こうした優位性に加え、繊維や眼鏡で培ったものづくり技術、原子力産業の集積、自然と歴史と文化に彩られた観光資源など多くの強みを持っている。この強みを更に発揮し、東アジアの成長と活力を取り込むために、我が国日本海側地域の要としてのゲートウェイをめざすべきである。すなわち、関西・中京圏から東アジアへ、東アジアから関西・中京圏へ、福井経由の双方向の物流・人流の回廊を構築し、東アジアの中での重要な役割を積極的に担っていくことである。それには、これまで以上に関西・中京圏との広域連携を進める必要がある。
 こうした東アジアのゲートウェイをめざした将来ビジョンや成長戦略を描くために、我々は各関係機関・団体との調整の役割を担うシンクタンク機能を果たしていきたい。


1.市場創造への挑戦とイノベーションによる新産業創出

 経済のグローバル化、環境問題、少子高齢化などへの対応が迫られる中、地域経済が活性化するためには、我々自らが成長性の高い市場を創造するとともに、イノベーションによる新産業創出への挑戦が不可欠である。限られた経営資源を有効に活用するため、自社の強みを発揮する領域を選択し、他社にない独自の技術・製品・商品・サービスを集中的に開発して市場を創造することである。また、成長著しい東アジアに適したマーケット戦略により、新市場開拓をめざすのも選択の一つである。
 福井県の産業構造を転換するには、原子力、農業、環境、医療、福祉などの有望分野への進出を促す必要もある。福井県は農業県でもあり、新たな産業分野としての農業、ビジネスとしての農業を見直すことである。一方、福井県は原子力の先進県である。原子力エネルギーの人材育成や研究のメッカをめざすとともに、成長産業である原子炉プラントメーカーや原子力関連企業を誘致して原子力産業を根づかせ、多様な厚みのある産業構造をめざすべきである。
 こうした市場創造、新市場開拓、新産業創出には、公的な機関及び地域金融機関などが一体となっての支援や、産学官連携による一層の取り組みが必要である。

2.東アジアのゲートウェイめざして描く将来ビジョンと成長戦略

 グローバル化とともに国際競争が激化する中、福井県は経済成長著しい東アジアのゲートウェイめざして、関西や中京との広域連携を強めながら将来ビジョンと成長戦略を描くべきである。
 東アジアの成長と活力を取り込み、関西・中京圏と東アジアを結ぶ物流・人流の国際交流拠点づくりは、人や物が集まることで新産業創出、観光振興、居住人口や交流人口の拡大など地域経済に大きな波及効果をもたらし、福井県のポテンシャルは一層高まる。そのためには、ロシア、中国、欧州までも含めた対岸諸国の窓口となる敦賀港、福井までの早期着工が期待される北陸新幹線、高規格幹線道路などのハード面での物流体系を一体的に整備促進するとともに、東アジアを見据えた人材育成や交流促進などのソフト面での取り組みも必要である。
 こうした取り組みとともに、東アジアに向けての積極的な情報発信により福井をアピールし、東アジアに将来を託すことで福井の活路を拓く県民の意識醸成も必要である。また、福井から東アジアへ進出する企業の技術者の語学研修や東アジアからの留学生受入を支援するための語学センター設立は喫緊の課題と考える。

3.学校と企業の協働による人間力育成

 昨年実施した当会のアンケート調査結果によると、企業は高卒者の採用に消極的であると判明した。これは高校の教育内容が採用する企業側のニーズとマッチしていないことや、産業構造の変化に対応しきれていないからである。高校での職業人育成は、現状では旧来の知識や技術の習得に終始しているが、人間力、特に自ら考え行動する力を身につけるのが第一である。どのような時代になっても世界で活躍できる人材を育てるためには、外国人や一度社会を経験した人材を教師として採用するのは一方法である。法制上の課題もあり一挙に変更とならないのであれば、我々が学校の現場に出向いて授業に参画するのも有効である。同時に、学校側も企業の実態を知るため、企業での教員研修や定期的な企業訪問をするなど、学校と企業が協働して人材育成に取り組む必要がある。
 今、福井県内の職業系高校の再編計画が進められているが、カリキュラム編成やその実践について、当会が支援することに労は惜しまない。

4.原子力エネルギー関連クラスターによるアジアの中核拠点めざして

 原子力関連施設や人材が集積している福井県において、産学官が一体化した原子力エネルギー関連クラスターを形成し、アジアの中核拠点をめざすべきである。それには、既存施設に加え、高速増殖炉の実証炉、原子力研究を進める研究炉や原子力発電技術者養成のための教育炉、原子力関連研究のホットラボ、原子炉プラントメーカーの研究・製造開発部門などを積極的に誘致し、人材が集まるようにすべきである。
 世界で原子力発電の建設・計画中は150基を超すとも言われ、資源や環境問題に貢献する成長産業として期待されている。このような環境下、世界やアジアの各国から留学生、研究生、訓練生を福井に集めるために、居住環境の整備、研究インフラの強化、幅広い人材育成のシステムなど、地元、事業者が一体となって進めていく体制を構築する必要がある。そして、原子力エネルギーの先進地としての福井、研究や人材育成のメッカとしての福井を、世界、とりわけアジアに発信して一大メッカ・拠点をめざすべきである。
 6月にはAPECエネルギー大臣会合が福井で開催予定である。国のエネルギー政策や低炭素社会の実現に貢献し、エネルギーの総合的な研究開発や人材育成に取り組んでいる福井を大いにアピールすると同時に、福井の産業、観光などをアピールする絶好の機会でもある。積極的に支援していきたい。


 世界同時不況に政権交代と、昨年は政治、経済、社会面で激動の年であった。我々は、日本、そして地域の社会、産業構造の再構築が迫られている中で、東アジアとの大交流時代に活路を拓き、新たな福井の価値創造に取り組んでいきたい。

以上